レビュー&整理シリーズです。
前回の前編に続き、今回は後編です。
<前編はこちら>
〜〜〜〜〜〜〜〜
■後編所感
破壊的イノベーションに対応する際に、適切なプロセスと価値基準をもった組織形態を創造する必要があり、既存事業に対する根強いプロセスと価値基準を持った大企業ほど対応が難しい。
そんな大企業がとるべき組織戦略として、新たな組織構造の構築、スピンアウト、買収といった手段について、それぞれを最適に行うためのTIPSを学べた。また、その中で改めて、経営資源だけでなくプロセスと価値基準が組織能力を左右する重要な要素であることを感じた。
自社や競合、関係会社や買収先など、それぞれの要素を元に評価を行い、能力を最大化させるために変化すべき点とそうでない点について、しっかりと判断できるよう考察・分析していく必要がある。
〜〜〜〜〜〜〜〜
『“イノベーションのジレンマ”への挑戦』クリステンセン(Harvard Business Review)〜後編〜
■「持続的イノベーション」対「破壊的イノベーション」
成功企業は、その能力が経営資源・プロセス・価値基準のどれを基盤にしているにしろ、市場の発展的変化に対応するのに長けている。『イノベーションのジレンマ』では、この変化のことを「持続的イノベーション」と称している。ところが、企業が問題に突き当たるのは、市場での革新的な変化に対応したり、「破壊的イノベーション」に対応したりする場合である。
持続的イノベーションは、メイン事業の顧客がすでに価値を認めている技術を活用して、商品やサービスの機能・性能を向上させる持続的技術が原動力になっている。<参考:コンパックの事例、メリルリンチの事例>
一方、破壊的イノベーションとは、新しい種類の商品・サービスの導入によりまったく新しい市場を創造するものである。その導入初期においては、メイン顧客が価値を置いている機能・性能の尺度では劣っていると判断されることもある。<参考:チャールズ・シュワブの事例>
こうしたイノベーションを「破壊的」と表現したのは、それが既存市場のメイン顧客が次の商品に求めているニーズには応えていないためである。当然のことながら、その代わりに既存のものとはまったく別の特性がある。その特性のおかげで新規市場商品が現れ、そして破壊的イノベーションが急速に進む結果、最終的には既存市場の顧客ニーズにも応えられるようになるのだ。
持続的イノベーションを開発し、導入するのは、ほぼ決まって業界のリーダー企業である。しかしこうした企業がけっして破壊的イノベーションを起こすことはなく、それにうまく対応することもできない。なぜだろう。経営資源・プロセス・価値基準のフレームワークの中に、その答えがある。
業界のリーダー企業は持続的技術を開発し、導入するように組織ができあがっているのだ。日々、競合他社に差をつけるため、改良した新商品を発売する。このために、持続的イノベーション、技術的潜在能力を評価し、現在の商品に代わるものに対する顧客ニーズを評価するプロセスを開発する。持続的技術への投資も、こうした企業が持つ価値基準と合致している。なぜなら、市場の最先端をいく顧客によりよい商品を販売することで、高いマージンが約束されているからだ。
破壊的イノベーションは頻繁に起こるものではないため、どのような企業にもこれに対処する決まったプロセスはない。また、破壊的商品は販売個数当たりの利益は必ずと言っていいほど低く、優良顧客には魅力的な商品ではないため、大企業の価値基準とは合致しない。<参考:メリルリンチの事例>
このように、小規模で破壊的企業のほうがこの市場で成功を追う能力が高いため、大企業が新興市場でお手上げとなる。スタートアップ企業の経営資源は十分ではない。しかし、それは問題ではないのだ。彼らの価値基準に基づけば、小規模な市場に挑戦できる。コスト構造から、低粗利益率であっても採算が合う。市場調査と資源配分の決定プロセスには、マネージャーが直感で動ける余地を残している。どのような意思決定にも慎重なリサーチと分析の裏付けが必要ということはない。このような大企業に対する優位性が積み重なり、破壊的イノベーションに対応したり、つくりだしたりする能力とさえなる。
■変化への適応能力を創造する。
では、大企業がこうした能力を開発するには、どうしたらよいのだろうか。
変革のマネジメントやリエンジニアリングなど、注目を浴びている経営手法が植えつけた観念とは裏腹に、プロセスには経営資源ほどの柔軟性があるわけでもなく、順応性があるわけでもない。価値基準となれば、これはさらに低い。このため、持続的なものにしろ破壊的なものにしろ、イノベーションに対応するために組織が新しい能力を求め、プロセスと価値基準を必要とする場合は、その能力を開発できる組織形態を構築しなければならない。これには三つの方法がある。
・企業の内部に新たな組織構造をつくり、そこで新しいプロセスを開発する。
・既存組織からスピンアウト(分離独立)し、独立組織をつくる。新しい組織のなかで、問題を解決するのに必要なプロセスを開発し、価値基準を生みだす。
・直面する課題にふさわしいプロセスと価値基準を合わせ持つ別の組織を買収する。
1.新たな組織構造をつくる
新たな課題に挑戦するために新たなプロセスが必要な場合~すなわち、従来とは異なる人材やグループが、従来とは違う方法、違うペースで共同作業する必要がある場合~既存の組織から関連する人々を引き抜いて新たなグループを結成し、その周りに新たな境界線を引く。
もともとの組織の境界線は、既存のプロセスの運営を促進するために引かれたものだが、新たなプロセスを生み出す場合は、えてして障害となりがちだ。新たなチームの境界線は、新たな形態で協働することを可能にし、その形態がゆくゆくは新規のプロセスとなる。スティーブン・ウィールライトとキム・クラークは著書の中で、こうした構造を「重量プロジェクトチーム」と称している。
このチームは専任で新たな課題に取り組み、メンバーは物理的に一つの場所で働く。またプロジェクト全体の成功のために、個々の人員は責任を課せられる。<参考:クライスラーの事例、メドトロニックの事例、IBMの事例、イーライリリー&カンパニーの事例>
2.スピンアウトにより、新たな組織能力を創造する
メイン事業の価値基準に基づくと、革新的プロジェクトのために経営資源が配分されない場合、企業はそのプロジェクトを新しいベンチャー事業としてスピンアウトすべきである。大規模の組織には、規模の小さな新興市場での位置づけを強固なものにするために、資金や人材など不可欠な経営資源を配分することは期待できない。また、ハイエンド市場で競争するためのコスト構造ができあがった企業が、ローエンド市場でも同じように競争するのは非常に難しい。スピンアウトは、従来型の企業がインターネットに取り組もうとする際に多様されている形態である。しかしこの形態が適切なのは、二つの場合に限られる。破壊的イノベーションによって収益を上げながら競争力を持つためには別のコスト構造が必要な場合と、メイン事業の組織の拡大ニーズに比較すると現在のビジネスの規模が取るに足らない場合である。<参考:HPの事例>
では、どのように本体の業務から分離すればよいだろうか。必ずしも物理的に別の場所にオフィスを構える必要はない。第一に必要なのは、このプロジェクトがメイン事業のプロジェクトと経営資源を奪い合うはめに陥らないようにすることだ。組織で主流になっている価値基準に沿わないプロジェクトは、当然のように重要度が低いと見なされる。
独立させた組織が物理的にメイン事業から切り離されているかどうかは、それほど問題ではない。重要なのは、経営資源の配分を決定するプロセスにおいて、通常の意思決定に使われる基準を使わないということだ。下図<イノベーションを生み出す組織戦略>に、イノベーションの種類とそれに最もふさわしい組織構造を詳説した。
マネージャーは新しい経営形態は古い形態を捨て去ることだと考え、それを否定しがちだ。従来のプロセスが既存商品のために設計されたものであり、完璧に機能しているためだ。しかし、破壊的変化の兆候が現れたなら、それがメイン事業に影響を与える前に、能力を結集してこの変化に立ち向かう必要がある。実際には、二つの事業を並行して走らせなければならない。一つは既存のビジネスモデルに合わせたプロセスを持つ事業である。もう一つは新しいビジネスモデルのために設計されたプロセスを持つ事業である。<参考:メリルリンチの事例>
ここで一つ忠告しておかなければならない。今回の調査のなかで、CEOが目を配り、みずから監督することなしに、メイン事業の価値基準と相容れない変化への対応に成功した企業は一社としてない。経営資源配分を決定するプロセスの基盤となっている従来の価値基準は、それだけ強固であることにほかならない。新設の組織が必要な経営資源を得て、新たに立ち向かう課題に合致したプロセスと価値基準とを自由につくり出すことが出来るのは、CEOしかいないのである。「スピンアウトとは、破壊的イノベーションという脅威を、別の組織に対応させることで、自分の肩の荷をおろすための道具である」と見ているようなCEOは必ずと言っていいほど失敗する。これまでの例外は一件もなかった。
3.買収によって組織能力を獲得する
買収という方法で組織能力を「買う」ことを考える場合も、相手企業が何ができ、何ができないかという能力を、経営資源・プロセス・価値基準とは分けて評価する必要がある。これは自社の能力を評価する場合と同じである。買収による能力獲得に成功するのは、買収案件のどこにこうした能力があるかを知り、それをうまく吸収することができる企業である。買収する側はまず初めに、「ずいぶん高額の買い物をしたわけだが、その価値はいったいどこにあるのだろう。価格を正当化しているのは、経営資源だとうか。あるいはプロセスや価値基準にあるのだろうか」と自問してみることだ。
買収することで手に入れる能力が、買収される企業のプロセスと価値基準に完全に根づいているとしよう。この場合、親会社が絶対に避けなければならないことが買収企業を自分の組織に統合することだ。統合すれば、買収される側のプロセスおよび価値基準は霧散してしまう。正しい戦略はこの事業を独立させ、親会社の経営資源を新会社のプロセスと価値基準に注入することである。このアプローチで確実に新しい能力を獲得できる。
しかしながら、もし、経営資源こそが買収される企業の成功を導いたものであり、そもそも買収を決定した根拠であるならば、親会社との統合は十分理にかなっている。基本的には、それは買収で手に入れた人材、商品、技術および顧客に親会社のプロセスを当てはめることで、親会社の持つ既存の能力を活用する方法である。<参考:ダイムラー・クライスラーの事例、IBM・ロルムの事例、シスコシステムズの事例>
組織が変化に直面している際の二つの質問。
・当社にはこの新たな状況で成功するのに必要な経営資源があるか。
・プロセスと価値基準は変化に対応できるだろうか。
二つ目の質問を自然に思いつくマネージャーはほとんどいないだろう。みずからの業務の進め方を示すプロセスや従業員の意思決定の基準となる価値基準は、これまで十分役立ってきたからだ。我々のフレームワークを使って理解していただきたいのは、組織に備わった能力は組織に何ができるかを規定するが、同時に、その組織にはできないことも規定している、ということである。
この点から次の質問に正直に答えるために、ちょっとばかりの時間を自己分析に費やしていただきたい。
・あなたの会社で通常進めている仕事のプロセスは、この新たな課題に対応するのにふさわしいものだろうか。
・あなたの会社の価値基準に従うと、この新たな施策は、優先されるだろうか、それとも尻窄みに終わるだろうか。
あなたの答えが「ノー」だとしても、心配は無用である。問題を理解すること自体がその解決に欠かせない最も重要なステップだからだ。もしここで希望的観測に立って判断してしまうと、イノベーションを担うチームの行く手に障害をつくることになる。そればかりか、結果が見えてからああだこうだと口をはさまれ、フラストレーションが溜まる状況となるだろう。大企業にイノベーションを起こすことがこれほど難しく見える理由は、すぐに対応すべき課題があり、きわめて有能な人材を雇いながら、その課題とは相容れないプロセスと価値基準とを持つ組織構造内で働かせようとするためである。変転激しき時代、有能な人材を有能な組織に配置することは、経営陣の肩にかかる大きな責任である。
前回の前編に続き、今回は後編です。
<前編はこちら>
〜〜〜〜〜〜〜〜
■後編所感
破壊的イノベーションに対応する際に、適切なプロセスと価値基準をもった組織形態を創造する必要があり、既存事業に対する根強いプロセスと価値基準を持った大企業ほど対応が難しい。
そんな大企業がとるべき組織戦略として、新たな組織構造の構築、スピンアウト、買収といった手段について、それぞれを最適に行うためのTIPSを学べた。また、その中で改めて、経営資源だけでなくプロセスと価値基準が組織能力を左右する重要な要素であることを感じた。
自社や競合、関係会社や買収先など、それぞれの要素を元に評価を行い、能力を最大化させるために変化すべき点とそうでない点について、しっかりと判断できるよう考察・分析していく必要がある。
〜〜〜〜〜〜〜〜
『“イノベーションのジレンマ”への挑戦』クリステンセン(Harvard Business Review)〜後編〜
■「持続的イノベーション」対「破壊的イノベーション」
成功企業は、その能力が経営資源・プロセス・価値基準のどれを基盤にしているにしろ、市場の発展的変化に対応するのに長けている。『イノベーションのジレンマ』では、この変化のことを「持続的イノベーション」と称している。ところが、企業が問題に突き当たるのは、市場での革新的な変化に対応したり、「破壊的イノベーション」に対応したりする場合である。
持続的イノベーションは、メイン事業の顧客がすでに価値を認めている技術を活用して、商品やサービスの機能・性能を向上させる持続的技術が原動力になっている。<参考:コンパックの事例、メリルリンチの事例>
一方、破壊的イノベーションとは、新しい種類の商品・サービスの導入によりまったく新しい市場を創造するものである。その導入初期においては、メイン顧客が価値を置いている機能・性能の尺度では劣っていると判断されることもある。<参考:チャールズ・シュワブの事例>
こうしたイノベーションを「破壊的」と表現したのは、それが既存市場のメイン顧客が次の商品に求めているニーズには応えていないためである。当然のことながら、その代わりに既存のものとはまったく別の特性がある。その特性のおかげで新規市場商品が現れ、そして破壊的イノベーションが急速に進む結果、最終的には既存市場の顧客ニーズにも応えられるようになるのだ。
持続的イノベーションを開発し、導入するのは、ほぼ決まって業界のリーダー企業である。しかしこうした企業がけっして破壊的イノベーションを起こすことはなく、それにうまく対応することもできない。なぜだろう。経営資源・プロセス・価値基準のフレームワークの中に、その答えがある。
業界のリーダー企業は持続的技術を開発し、導入するように組織ができあがっているのだ。日々、競合他社に差をつけるため、改良した新商品を発売する。このために、持続的イノベーション、技術的潜在能力を評価し、現在の商品に代わるものに対する顧客ニーズを評価するプロセスを開発する。持続的技術への投資も、こうした企業が持つ価値基準と合致している。なぜなら、市場の最先端をいく顧客によりよい商品を販売することで、高いマージンが約束されているからだ。
破壊的イノベーションは頻繁に起こるものではないため、どのような企業にもこれに対処する決まったプロセスはない。また、破壊的商品は販売個数当たりの利益は必ずと言っていいほど低く、優良顧客には魅力的な商品ではないため、大企業の価値基準とは合致しない。<参考:メリルリンチの事例>
このように、小規模で破壊的企業のほうがこの市場で成功を追う能力が高いため、大企業が新興市場でお手上げとなる。スタートアップ企業の経営資源は十分ではない。しかし、それは問題ではないのだ。彼らの価値基準に基づけば、小規模な市場に挑戦できる。コスト構造から、低粗利益率であっても採算が合う。市場調査と資源配分の決定プロセスには、マネージャーが直感で動ける余地を残している。どのような意思決定にも慎重なリサーチと分析の裏付けが必要ということはない。このような大企業に対する優位性が積み重なり、破壊的イノベーションに対応したり、つくりだしたりする能力とさえなる。
■変化への適応能力を創造する。
では、大企業がこうした能力を開発するには、どうしたらよいのだろうか。
変革のマネジメントやリエンジニアリングなど、注目を浴びている経営手法が植えつけた観念とは裏腹に、プロセスには経営資源ほどの柔軟性があるわけでもなく、順応性があるわけでもない。価値基準となれば、これはさらに低い。このため、持続的なものにしろ破壊的なものにしろ、イノベーションに対応するために組織が新しい能力を求め、プロセスと価値基準を必要とする場合は、その能力を開発できる組織形態を構築しなければならない。これには三つの方法がある。
・企業の内部に新たな組織構造をつくり、そこで新しいプロセスを開発する。
・既存組織からスピンアウト(分離独立)し、独立組織をつくる。新しい組織のなかで、問題を解決するのに必要なプロセスを開発し、価値基準を生みだす。
・直面する課題にふさわしいプロセスと価値基準を合わせ持つ別の組織を買収する。
1.新たな組織構造をつくる
新たな課題に挑戦するために新たなプロセスが必要な場合~すなわち、従来とは異なる人材やグループが、従来とは違う方法、違うペースで共同作業する必要がある場合~既存の組織から関連する人々を引き抜いて新たなグループを結成し、その周りに新たな境界線を引く。
もともとの組織の境界線は、既存のプロセスの運営を促進するために引かれたものだが、新たなプロセスを生み出す場合は、えてして障害となりがちだ。新たなチームの境界線は、新たな形態で協働することを可能にし、その形態がゆくゆくは新規のプロセスとなる。スティーブン・ウィールライトとキム・クラークは著書の中で、こうした構造を「重量プロジェクトチーム」と称している。
このチームは専任で新たな課題に取り組み、メンバーは物理的に一つの場所で働く。またプロジェクト全体の成功のために、個々の人員は責任を課せられる。<参考:クライスラーの事例、メドトロニックの事例、IBMの事例、イーライリリー&カンパニーの事例>
2.スピンアウトにより、新たな組織能力を創造する
メイン事業の価値基準に基づくと、革新的プロジェクトのために経営資源が配分されない場合、企業はそのプロジェクトを新しいベンチャー事業としてスピンアウトすべきである。大規模の組織には、規模の小さな新興市場での位置づけを強固なものにするために、資金や人材など不可欠な経営資源を配分することは期待できない。また、ハイエンド市場で競争するためのコスト構造ができあがった企業が、ローエンド市場でも同じように競争するのは非常に難しい。スピンアウトは、従来型の企業がインターネットに取り組もうとする際に多様されている形態である。しかしこの形態が適切なのは、二つの場合に限られる。破壊的イノベーションによって収益を上げながら競争力を持つためには別のコスト構造が必要な場合と、メイン事業の組織の拡大ニーズに比較すると現在のビジネスの規模が取るに足らない場合である。<参考:HPの事例>
では、どのように本体の業務から分離すればよいだろうか。必ずしも物理的に別の場所にオフィスを構える必要はない。第一に必要なのは、このプロジェクトがメイン事業のプロジェクトと経営資源を奪い合うはめに陥らないようにすることだ。組織で主流になっている価値基準に沿わないプロジェクトは、当然のように重要度が低いと見なされる。
独立させた組織が物理的にメイン事業から切り離されているかどうかは、それほど問題ではない。重要なのは、経営資源の配分を決定するプロセスにおいて、通常の意思決定に使われる基準を使わないということだ。下図<イノベーションを生み出す組織戦略>に、イノベーションの種類とそれに最もふさわしい組織構造を詳説した。
マネージャーは新しい経営形態は古い形態を捨て去ることだと考え、それを否定しがちだ。従来のプロセスが既存商品のために設計されたものであり、完璧に機能しているためだ。しかし、破壊的変化の兆候が現れたなら、それがメイン事業に影響を与える前に、能力を結集してこの変化に立ち向かう必要がある。実際には、二つの事業を並行して走らせなければならない。一つは既存のビジネスモデルに合わせたプロセスを持つ事業である。もう一つは新しいビジネスモデルのために設計されたプロセスを持つ事業である。<参考:メリルリンチの事例>
ここで一つ忠告しておかなければならない。今回の調査のなかで、CEOが目を配り、みずから監督することなしに、メイン事業の価値基準と相容れない変化への対応に成功した企業は一社としてない。経営資源配分を決定するプロセスの基盤となっている従来の価値基準は、それだけ強固であることにほかならない。新設の組織が必要な経営資源を得て、新たに立ち向かう課題に合致したプロセスと価値基準とを自由につくり出すことが出来るのは、CEOしかいないのである。「スピンアウトとは、破壊的イノベーションという脅威を、別の組織に対応させることで、自分の肩の荷をおろすための道具である」と見ているようなCEOは必ずと言っていいほど失敗する。これまでの例外は一件もなかった。
3.買収によって組織能力を獲得する
買収という方法で組織能力を「買う」ことを考える場合も、相手企業が何ができ、何ができないかという能力を、経営資源・プロセス・価値基準とは分けて評価する必要がある。これは自社の能力を評価する場合と同じである。買収による能力獲得に成功するのは、買収案件のどこにこうした能力があるかを知り、それをうまく吸収することができる企業である。買収する側はまず初めに、「ずいぶん高額の買い物をしたわけだが、その価値はいったいどこにあるのだろう。価格を正当化しているのは、経営資源だとうか。あるいはプロセスや価値基準にあるのだろうか」と自問してみることだ。
買収することで手に入れる能力が、買収される企業のプロセスと価値基準に完全に根づいているとしよう。この場合、親会社が絶対に避けなければならないことが買収企業を自分の組織に統合することだ。統合すれば、買収される側のプロセスおよび価値基準は霧散してしまう。正しい戦略はこの事業を独立させ、親会社の経営資源を新会社のプロセスと価値基準に注入することである。このアプローチで確実に新しい能力を獲得できる。
しかしながら、もし、経営資源こそが買収される企業の成功を導いたものであり、そもそも買収を決定した根拠であるならば、親会社との統合は十分理にかなっている。基本的には、それは買収で手に入れた人材、商品、技術および顧客に親会社のプロセスを当てはめることで、親会社の持つ既存の能力を活用する方法である。<参考:ダイムラー・クライスラーの事例、IBM・ロルムの事例、シスコシステムズの事例>
組織が変化に直面している際の二つの質問。
・当社にはこの新たな状況で成功するのに必要な経営資源があるか。
・プロセスと価値基準は変化に対応できるだろうか。
二つ目の質問を自然に思いつくマネージャーはほとんどいないだろう。みずからの業務の進め方を示すプロセスや従業員の意思決定の基準となる価値基準は、これまで十分役立ってきたからだ。我々のフレームワークを使って理解していただきたいのは、組織に備わった能力は組織に何ができるかを規定するが、同時に、その組織にはできないことも規定している、ということである。
この点から次の質問に正直に答えるために、ちょっとばかりの時間を自己分析に費やしていただきたい。
・あなたの会社で通常進めている仕事のプロセスは、この新たな課題に対応するのにふさわしいものだろうか。
・あなたの会社の価値基準に従うと、この新たな施策は、優先されるだろうか、それとも尻窄みに終わるだろうか。
あなたの答えが「ノー」だとしても、心配は無用である。問題を理解すること自体がその解決に欠かせない最も重要なステップだからだ。もしここで希望的観測に立って判断してしまうと、イノベーションを担うチームの行く手に障害をつくることになる。そればかりか、結果が見えてからああだこうだと口をはさまれ、フラストレーションが溜まる状況となるだろう。大企業にイノベーションを起こすことがこれほど難しく見える理由は、すぐに対応すべき課題があり、きわめて有能な人材を雇いながら、その課題とは相容れないプロセスと価値基準とを持つ組織構造内で働かせようとするためである。変転激しき時代、有能な人材を有能な組織に配置することは、経営陣の肩にかかる大きな責任である。